肩周りが痛い原因は?考えられる病気と何科を受診すべきか解説
肩周りに痛みを感じると、単なる肩こりだと自己判断してしまいがちです。
しかし、その痛みの背景には、肩関節の問題だけでなく、首や内臓の病気、さらには精神的な要因が隠れている可能性もあります。
痛みの原因は多岐にわたるため、症状を正しく理解し、適切な対処法を知ることが重要です。
この記事では、肩周りの痛みを引き起こす原因や考えられる病気、病院を受診する際の目安、そして診療科の選び方について詳しく解説します。
そのつらい肩周りの痛み、原因は一つじゃないかもしれません
多くの人が経験する肩周りの痛みは、筋肉の疲労や血行不良によるものだけではありません。
関節リウマチのような自己免疫疾患が関節の炎症を引き起こしたり、精神的なストレスが筋肉の緊張を招き、痛みを増幅させたりすることもあります。
また、首の骨の異常や内臓の不調が、関連痛として肩に症状を現すケースも少なくありません。
このように、肩周りの痛みの原因は一つとは限らず、複数の要因が複雑に絡み合っている場合があるため、痛みの性質や他の症状の有無を注意深く観察することが、原因を特定する第一歩となります。
【原因別】肩周りの痛みを引き起こす代表的な3つのタイプ
肩周りの痛みの原因は、大きく分けて3つのタイプに分類できます。
一つ目は、肩の関節やその周辺の筋肉、腱といった組織に問題があるタイプです。
二つ目は、首の骨や神経に原因があり、痛みが肩にまで及んでいるタイプです。
そして三つ目は、内臓の病気が関連痛として肩に痛みを引き起こすタイプです。
痛みの原因がどこにあるかによって、症状の現れ方や適切な対処法、受診すべき診療科が異なります。
自身の症状がどのタイプに近いかを把握することで、より的確な対応が可能になります。
タイプ1:肩関節の動きに問題が生じているケース
肩関節自体に問題が生じて痛みが発生する代表例として、四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)や腱板断裂が挙げられます。
四十肩・五十肩は、加齢に伴い肩の関節を構成する組織が炎症を起こし、痛みや可動域の制限を引き起こす状態です。
特に夜間に痛みが強くなる傾向があります。
一方、腱板断裂は、肩を安定させる重要なインナーマッスルである腱板が損傷したり断裂したりするもので、腕を上げる動作で痛みを感じることが多くなります。
これらの症状は、肩の関節がスムーズに動かなくなることで日常生活に支障をきたすため、専門的な診断と治療が必要となります。
タイプ2:首の骨や神経が原因となっているケース
肩の痛みの中には、首に原因があるものも少なくありません。
代表的な疾患として、頸椎椎間板ヘルニアや変形性頸椎症が挙げられます。
これらの疾患では、首の骨と骨の間でクッションの役割を果たしている椎間板が飛び出したり、加齢によって首の骨が変形したりすることで、肩や腕へ向かう神経が圧迫されます。
その結果、肩の痛みだけでなく、腕や手にかけてのしびれ、感覚の鈍化、筋力低下といった症状が現れるのが特徴です。
特に、肩を動かしても痛みに変化がないのに、首を特定の方向に動かすと痛みが強まる場合は、このタイプが疑われます。
タイプ3:内臓の不調が肩の痛みとして現れるケース
内臓の病気が原因で、関連痛として肩に痛みが出ることがあります。
これは、内臓の異常を知らせる神経と肩の感覚を伝える神経が脊髄で近接しているために起こる現象です。
例えば、心臓の病気(狭心症・心筋梗塞)では左肩や腕に、肝臓や胆のうの病気(胆石症・胆のう炎)では右肩に痛みが出ることが知られています。
これらの場合、肩の痛みだけでなく、胸の圧迫感や息苦しさ、吐き気、腹痛、咳、熱といった全身の症状を伴うことが特徴です。
肩を動かしても痛みの強さが変わらない場合は、内臓疾患の可能性も考慮する必要があります。
危険なサインかも?すぐに病院へ行くべき肩の痛みの特徴
肩周りの痛みのすべてが緊急を要するわけではありませんが、中には放置すると重症化したり、命に関わる病気のサインであったりする場合があります。
痛みの強さや種類、伴う症状によっては、早急に医療機関を受診する必要があります。
特に、日常生活に大きな支障をきたすほどの激しい痛みや、安静にしていても痛みが治まらない場合、しびれや他の身体症状を伴う場合は注意が必要です。
これらの危険なサインを見逃さず、適切なタイミングで専門医の診察を受けることが大切です。
腕が上がらない、または特定の方向に動かせないほどの痛み
痛みのために腕が上がらない、後ろに手が回らないなど、肩の動きが著しく制限される場合は、単なる筋肉痛ではない可能性があります。
特に、特定の方向に動かそうとすると激痛が走るのは、肩関節の内部で炎症や組織の損傷が起きているサインかもしれません。
例えば、四十肩・五十肩の急性期や、腱板が断裂している場合などが考えられます。
着替えや洗髪といった日常の何気ない動作が困難になるほどの痛みは、生活の質を大きく損なうため、我慢せずに整形外科を受診するのが賢明です。
原因を特定し、早期に適切な治療を開始することで、症状の悪化や慢性化を防ぐことができます。
安静にしていてもズキズキと痛みが続く
肩を動かしていない、安静にしている状態でもズキズキとした拍動性の痛みが続く場合は、強い炎症が起きている可能性を示唆します。
特に夜間に痛みが悪化して眠れない「夜間痛」は、四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)や石灰沈着性腱板炎などの特徴的な症状です。
石灰沈着性腱板炎は、肩の腱板にカルシウムが沈着し、急激な炎症と激痛を引き起こす病気です。
このような安静時痛は、炎症が鎮まらない限り改善が難しく、痛みのために心身ともに疲弊してしまいます。
市販の湿布や鎮痛剤でごまかさず、速やかに医療機関で診察を受け、炎症を抑える治療を受けることが必要です。
肩の痛みだけでなく、腕や手にしびれを感じる
肩の痛みに加えて、腕や指先にまで広がるしびれや、ピリピリとした感覚異常がある場合は、神経が圧迫されている可能性が考えられます。
この症状の主な原因は、首(頸椎)にあります。
頸椎椎間板ヘルニアや変形性頸椎症などによって、首の骨から出て腕へと向かう神経が圧迫されると、支配領域である肩や腕、手に痛みやしびれが生じます。
しびれの範囲は、鎖骨の周りや肩甲骨、背中に及ぶこともあります。
しびれを放置すると、感覚が鈍くなったり、筋力が低下して物を掴みにくくなったりすることもあるため、早めに整形外科や脳神経外科で原因を調べてもらうことが重要です。
胸の圧迫感や息苦しさを伴う肩の痛み
肩の痛み、特に左肩の痛みに加えて、胸が締め付けられるような圧迫感、息苦しさ、冷や汗といった症状が現れた場合は、極めて危険なサインです。
これは狭心症や心筋梗塞といった、心臓の血管が詰まりかける、あるいは詰まってしまう虚血性心疾患の可能性があります。
心臓の痛みが、関連痛として左肩や顎、背中に放散することがあるためです。
これらの症状は一刻を争う緊急事態であり、命に関わるため、迷わず救急車を呼ぶか、速やかに循環器内科などの医療機関を受診してください。
肩の症状だからと軽視せず、胸の症状を伴う場合は特に注意が必要です。
肩周りの痛みに悩んだら、何科を受診すればいい?
肩周りが痛いとき、何科を受診すればよいのか迷うことがあります。
痛みの原因が多岐にわたるため、症状によって適切な診療科が異なります。
多くの場合は骨や関節、筋肉の問題を専門とする整形外科が第一選択となりますが、しびれが強い場合や、内臓疾患が疑われる症状がある場合は、他の診療科の受診も検討する必要があります。
自分の症状をよく観察し、最も可能性の高い原因に対応できる診療科を選ぶことが、的確な診断と治療への近道です。
まずは「整形外科」で原因を特定してもらいましょう
肩周りの痛みの原因として最も多いのは、骨、関節、靭帯、腱、筋肉といった運動器の障害です。
そのため、まずは整形外科を受診するのが一般的です。
特に、肩を動かすと痛い、腕を上げたり回したりすると特定の角度で痛みが走る、肩が上がらないといった症状がある場合は、整形外科が専門分野となります。
整形外科では、問診や触診に加え、レントゲン、超音波(エコー)、MRIなどの画像検査を用いて、骨の変形や関節の状態、腱の損傷などを詳細に調べることができます。
これにより、四十肩・五十肩、腱板断裂、変形性肩関節症といった疾患を正確に診断し、適切な治療へと進むことが可能です。
強いしびれや麻痺がある場合は「脳神経外科」も視野に
肩の痛みとともに、腕や手に力が入らない麻痺症状や、感覚が鈍くなるほどの強いしびれがある場合は、脳や脊髄といった中枢神経系の問題が関わっている可能性があります。
特に、ろれつが回らない、物が二重に見える、めまいがするといった症状を伴う場合は、脳卒中などの脳血管障害も疑われます。
このようなケースでは、脳神経外科や神経内科の受診を検討する必要があります。
また、首の病気である頸椎椎間板ヘルニアや後縦靱帯骨化症なども、整形外科だけでなく脳神経外科で診療している場合があります。
どちらを受診すべきか迷う場合は、まずかかりつけ医に相談するか、病院の総合窓口で問い合わせてみるのも一つの方法です。
内臓の病気が疑われる症状なら「内科・循環器内科」へ相談を
肩を動かしても痛みが変わらず、安静にしていても痛む場合、さらに胸の痛みや圧迫感、息苦しさ、腹痛、発熱、黄疸といった全身症状を伴う場合は、内臓の病気が原因である可能性を疑う必要があります。
特に、左肩の痛みと胸部症状は心筋梗塞や狭心症、右肩の痛みと腹部症状は胆石症や肝臓の病気などが考えられます。
このような症状がある場合は、整形外科ではなく、まずは内科を受診してください。
特に胸の症状が強い場合は、心臓を専門とする循環器内科が適しています。
命に関わる重大な病気のサインである可能性もあるため、自己判断せずに速やかに専門医の診察を受けることが重要です。
整形外科で行われる肩周りの痛みに対する主な治療法
整形外科では、肩周りの痛みの原因や重症度に応じて、様々な治療法を組み合わせて行います。
治療の基本は、まず炎症や痛みを抑え、その後に関節の動きを改善していく「保存的治療」です。
多くの場合はこの保存的治療で症状が改善しますが、効果が見られない場合や、腱や筋の断裂など構造的な問題がある場合には、手術的治療が検討されます。
治療の目標は、痛みを取り除き、肩の機能を回復させて、日常生活への支障をなくすことです。
医師と相談しながら、自身の状態に合った治療法を選択していきます。
薬や注射で炎症と痛みを緩和する保存的治療
肩の痛みが強い急性期には、まず炎症を鎮めて痛みを和らげることが最優先されます。
このために行われるのが薬物療法です。
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の飲み薬や貼り薬、塗り薬などが用いられ、炎症を抑えて痛みを軽減します。
これらの薬で効果が不十分な場合や、痛みが非常に強い場合には、より直接的に効果を発揮する注射療法が選択されることもあります。
炎症を起こしている肩関節内に、強力な抗炎症作用を持つステロイドや、関節の滑りを良くするヒアルロン酸などを注射します。
これにより、つらい痛みを迅速に抑え、その後のリハビリテーションへスムーズに移行することが可能になります。
リハビリテーションで肩の可動域を広げる運動療法
痛みが少し落ち着いてきたら、リハビリテーションによる運動療法を開始します。
痛いからといって肩を全く動かさないでいると、関節が硬くなってしまい(拘縮)、かえって動きの範囲が狭くなってしまいます。
理学療法士などの専門家の指導のもと、痛みが出ない範囲でゆっくりと肩を動かすストレッチや、振り子のように腕を揺らす運動(コッドマン体操)などを行い、徐々に関節の可動域を広げていきます。
また、肩周りの筋肉をバランスよく鍛えることで、関節の安定性を高め、再発を予防する効果も期待できます。
自宅でできる簡単なストレッチなども指導されるため、継続して取り組むことが機能回復の鍵となります。
保存的治療で改善しない場合の手術的治療
数ヶ月にわたって薬物療法やリハビリテーションなどの保存的治療を続けても症状の改善が見られない場合や、腱板断裂のように肩の筋肉が断裂してしまっている場合、また骨折や脱臼が原因の場合には、手術的治療が検討されます。
最近では、小さなカメラを関節内に入れて行う関節鏡視下手術が主流となっており、体への負担が少なく、術後の回復も早いのが特徴です。
手術では、損傷した腱を縫合したり、炎症を起こしている滑液包を切除したり、骨の棘を削ったりします。
手術によって痛みの原因を根本的に取り除くことが期待できますが、術後には機能回復のためのリハビリテーションが不可欠です。
今日から試せる!肩周りの痛みを和らげるセルフケア方法
病院での治療と並行して、日常生活の中でセルフケアを取り入れることで、肩周りの痛みを和らげ、症状の改善を促すことができます。
ただし、痛みの原因や時期によって適切なケアは異なります。
特に痛みが強い急性期に無理なセルフケアを行うと、かえって症状を悪化させてしまう可能性もあるため注意が必要です。
まずは安静を基本とし、痛みが落ち着いてきたら血行を促進するケアや、日常生活の習慣を見直すことが、症状の緩和と再発予防につながります。
痛みが強い時期は無理に動かさず安静を心がける
肩に急な痛みが生じたときや、ズキズキと疼くような強い痛みがある急性期には、無理に動かしたり、自己判断でマッサージしたりすることは避けるべきです。
この時期は肩関節の内部で炎症が起きている可能性が高く、動かすことで炎症を助長してしまう恐れがあります。
痛みを誘発するような動作は極力避け、腕を安静に保つことが最も重要です。
場合によっては、三角巾やアームスリングで腕を吊るし、肩への負担を軽減するのも有効な方法です。
この時期は、肩甲骨のストレッチなども控え、まずは炎症が治まるのを待つことに専念します。
血行を良くして筋肉の緊張をほぐすストレッチ
強い痛みが和らぎ、肩を動かせるようになってきたら、温めて血行を促進することが有効です。
38~40度程度のぬるめのお湯にゆっくり浸かったり、蒸しタオルやホットパックで肩周りを温めたりすると、筋肉の緊張がほぐれて痛みが緩和されます。
血行が良くなった状態で、痛みを感じない範囲でゆっくりと肩を回したり、腕を前後に振ったりする軽いストレッチを行うと、関節が硬くなるのを防ぎ、可動域の回復を助けます。
ただし、ストレッチ中に痛みが強まるようであれば、無理せずすぐに中止し、運動の強度や範囲を見直すことが必要です。
長時間同じ姿勢を避けてデスクワークの環境を見直す
デスクワークなどで長時間同じ姿勢を続けることは、肩周りの筋肉に持続的な緊張を与え、血行不良を引き起こす大きな原因となります。
これを防ぐためには、少なくとも1時間に1回は立ち上がって休憩を取り、肩を回したり、首をゆっくり動かしたりするなどの軽いストレッチを行うことが効果的です。
また、作業環境を見直すことも重要です。
パソコンのモニターが目線より下にあると、無意識に首が前に出て猫背になりがちなので、モニターを台に乗せるなどして高さを調整します。
椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばして座ることを意識するだけで、肩への負担は大きく軽減されます。
まとめ
肩周りの痛みの原因は、肩関節そのものの問題から、首の神経、内臓の不調まで多岐にわたります。
痛みの特徴や随伴する症状を観察し、危険なサインを見逃さないことが重要です。
腕が上がらないほどの強い痛み、安静時痛、しびれ、胸部症状などがある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
診療科は、まず整形外科が第一選択となりますが、症状によっては脳神経外科や内科・循環器内科が適切な場合もあります。
セルフケアは症状の緩和に役立ちますが、自己判断に頼らず、痛みが続く場合は専門医に相談することが根本的な解決につながります。
日常生活では、肩甲骨周りを意識した正しい姿勢を保つことも予防の一環となります。
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