厚生労働省のメンタルヘルスケアとは?4つのケアと対策の基本を解説
厚生労働省が推進するメンタルヘルスケアとは、労働者が心身ともに健康で、いきいきと働ける職場環境を実現するための取り組みを指します。
この対策の柱となるのが「4つのケア」と呼ばれる考え方です。
本記事では、企業に求められるメンタルヘルス対策の基本的な考え方から、4つのメンタルヘルスケアの具体的な内容、実践方法までを解説します。
従業員の健康を守り、組織全体の生産性を向上させるための知識として役立ててください。
厚生労働省が示す「メンタルヘルスケア」の基本的な考え方
厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」において、企業がメンタルヘルスケアに取り組む際の基本的な考え方を示しています。
この指針で定義されているメンタルヘルスとは、すべての働く人が健やかに、いきいきと仕事に取り組める状態を指します。
企業は、従業員が自らのストレスに気づき対処する「セルフケア」から、組織的な環境改善まで、多角的な視点で対策を計画・実行することが求められます。
詳細は厚生労働省のウェブサイトで公開されているガイドラインのpdf資料で確認できます。
企業がメンタルヘルス対策に取り組むべき3つの理由
企業がメンタルヘルス対策に取り組むことは、単なる福利厚生の枠を超え、経営上の重要な責務と位置づけられています。
2015年からはストレスチェック制度が義務化されるなど、関連法令の整備も進んでいます。
法令遵守はもちろんのこと、従業員の健康を守り、生産性を維持し、最終的に企業の持続的な成長を実現するために、積極的な対策が不可欠です。
ここでは、企業がメンタルヘルス対策を推進すべき具体的な理由を3つの側面から解説します。
従業員のパフォーマンス低下を防ぎ生産性を維持する
従業員の心の健康状態は、業務のパフォーマンスに直接的な影響を及ぼします。
メンタルヘルスに不調を抱えると、集中力や判断力、意欲が低下し、業務効率が悪化したり、ミスが増加したりする傾向が見られます。
このような個人のパフォーマンス低下が複数人、あるいは部署全体で発生すると、組織全体の生産性にも悪影響が及びかねません。
企業が組織的にメンタルヘルスケアに取り組み、従業員が健康に働ける環境を整備することは、個々の能力を最大限に引き出し、組織全体の生産性を維持・向上させるための基盤となります。
人材の離職を防ぎ安定した組織運営を実現する
職場の人間関係や過重な業務負荷といったストレスは、従業員の離職を引き起こす主要な原因の一つです。
特に優秀な人材がメンタルヘルスの不調を理由に離職することは、企業にとって大きな損失となります。
従業員が一人離職すると、新たな人材の採用や育成にかかるコスト、そして残された従業員の業務負担増加など、多くの問題が発生します。
メンタルヘルス対策を通じて、従業員が安心して長く働ける職場環境を構築することは、人材の定着率を高め、採用や教育のコストを抑制し、組織の安定的な運営を可能にします。
企業の安全配慮義務を果たすことでリスクを軽減する
労働契約法第5条では、企業は従業員が安全で健康に働けるように配慮する「安全配慮義務」を負うと定められています。
この義務には、身体的な安全だけでなく、心の健康、すなわちメンタルヘルスへの配慮も含まれます。
企業がこの義務を怠り、従業員が精神疾患を発症した場合、損害賠償請求などの訴訟に発展するリスクが存在します。
適切なメンタルヘルス対策を講じることは、法的な義務を履行し、労務リスクを軽減する上で不可欠です。
従業員の健康を守る取り組みは、企業の社会的責任を果たし、信頼性を高めることにもなります。
厚生労働省が推奨するメンタルヘルス対策の柱「4つのケア」
厚生労働省は、企業における効果的なメンタルヘルス対策の枠組みとして「4つのケア」を推奨しています。
これは、「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4つから構成されます。
これらのケアはそれぞれ独立しているのではなく、相互に連携し、継続的に実施されることで、従業員の心の健康を多角的に支える体制が構築されます。
企業は自社の状況に合わせて、この4つのケアを円滑に機能させる仕組みを整える必要があります。
従業員自身でできる「セルフケア」でストレスに気づき対処する
セルフケアとは、従業員一人ひとりが自身のストレス状態に関心を持ち、異変に早期に気づいて適切に対処することです。
ストレスの原因や反応は個人によって異なるため、まずは自分自身の状態を正しく理解することが第一歩となります。
企業は、従業員がセルフケアを実践できるよう、ストレスに関する知識や具体的な対処法について学ぶ研修機会を提供する必要があります。
例えば、ストレスコーピングの方法、リラクゼーション技法、睡眠や食生活の重要性などを周知徹底します。
これにより、従業員は自律的に自身のメンタルヘルスを管理する意識とスキルを高めることができます。
管理監督者が行う「ラインによるケア」で部下の異変を早期発見する
ラインによるケア(ラインケア)とは、部長や課長などの管理監督者が、部下の心の健康状態に配慮し、職場環境の改善に取り組むことです。
管理監督者は、日常的に部下の様子に気を配り、「遅刻や欠勤が増えた」「表情が暗い」「ミスが目立つ」といった普段と異なる変化を早期に察知する役割を担います。
部下から相談を受けた際には、話を真摯に聞き、必要に応じて産業医や専門の相談窓口へつなぐことも重要です。
また、個別の対応だけでなく、長時間労働の是正や業務負荷の調整など、部下が働きやすい環境を整えることもラインケアの重要な要素です。
産業医などが主導する「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」
事業場内産業保健スタッフ等によるケアは、企業内にいる産業医や保健師、衛生管理者、人事労務管理スタッフといった専門家が中心となって、メンタルヘルスケアの推進を支援する活動です。
これらの医療従事者や担当者は、企業のメンタルヘルス対策全体の企画立案から実施、評価までを主導します。
具体的な役割として、セルフケアやラインケアが効果的に行われるよう研修を企画したり、従業員や管理監督者からの相談に対応したりすることが挙げられます。
また、職場環境の評価や改善提案を行い、より健康的な職場づくりを専門的な見地からサポートします。
社外の専門機関を活用する「事業場外資源によるケア」
事業場外資源によるケアとは、社内の体制だけでは対応が困難な場合に、外部の専門機関やサービスを活用することです。
代表的なものにEAP(従業員支援プログラム)があり、カウンセリングやコンサルティングといった多様なサービスを提供します。
その他にも、地域の産業保健総合支援センター、医療機関、精神保健福祉センターなど、様々な専門機関が利用可能です。
社外に相談窓口を設けることで、従業員はプライバシーが保護された環境で安心して悩みを打ち明けやすくなります。
企業はこれらの外部資源の情報を従業員に提供し、必要な時にいつでも利用できる体制を整えるべきです。
企業で実践できるメンタルヘルス対策の具体例
メンタルヘルス対策を効果的に進めるためには、「4つのケア」の考え方を基に、具体的な施策を計画し、実行していく必要があります。
施策は、不調を未然に防ぐ一次予防、不調の早期発見と対応を行う二次予防、そして休職からの職場復帰を支援する三次予防の各段階で考えられます。
ここでは、多くの企業で実践可能であり、かつ効果的なメンタルヘルス対策の具体例をいくつか紹介します。
自社の状況に応じてこれらの対策を組み合わせ、包括的な取り組みを推進してください。
メンタルヘルス研修を実施して従業員の知識を深める
従業員のメンタルヘルスに関するリテラシーを向上させることは、対策の基本となります。
全従業員を対象に、ストレスの仕組みやセルフケアの方法について学ぶ研修を実施します。
管理職には、部下の異変に気づくための視点や傾聴のスキル、適切な対応方法を学ぶラインケア研修が不可欠です。
研修形式は集合研修だけでなく、時間や場所の制約を受けにくいeラーニングも有効な手段です。
定期的に研修を行うことで、組織全体でメンタルヘルスへの理解を深め、不調のサインを見逃さず、誰もが相談しやすい職場風土を醸成します。
働きやすい職場環境を整備してストレスを未然に防ぐ
従業員のストレスを軽減するためには、個人のケアだけでなく、職場環境そのものに存在するストレス要因を特定し、改善することが重要です。
具体的には、長時間労働の是正、適正な業務量の配分、裁量権の付与、休暇を取得しやすい雰囲気づくりなどが挙げられます。
また、従業員同士のコミュニケーションを活性化させ、互いにサポートし合える関係性を構築することも効果的です。
定期的なアンケートやヒアリングを通じて職場の課題を把握し、物理的な環境から組織の風土まで、総合的な視点で改善活動を継続的に行うことが求められます。
ストレスチェック制度を活用して不調の兆候を把握する
常時50人以上の労働者を使用する事業場に義務付けられているストレスチェックは、メンタルヘルス対策において重要なツールです。
この調査を通じて、従業員は自身のストレス状態を客観的に把握し、セルフケアのきっかけとすることができます。
企業側は、個人の結果を知ることはできませんが、部署や課単位で集計・分析した結果から、職場ごとのストレス傾向を把握することが可能です。
この集団分析結果に基づき、具体的な職場環境改善のアクションプランを策定・実行することで、組織全体のストレスレベルを低減させる効果が期待されます。
休職からのスムーズな職場復帰を支援する体制を整える
メンタルヘルスの不調により休職した従業員が、安心して職場に復帰し、就業を継続できるための支援体制(リワーク支援)を整備することは、三次予防の観点から非常に重要です。
スムーズな復職のためには、本人、主治医、産業医、人事担当者、直属の上司が連携し、「職場復帰支援プラン」を作成する必要があります。
このプランには、復帰日の決定、勤務時間の段階的な延長(例:時短勤務から開始)、業務内容の制限、定期的な面談の設定などが含まれます。
焦らず本人のペースに合わせた丁寧な支援を行い、再発を防ぐことが肝心です。
メンタルヘルスケアを推進する上で注意すべきポイント
メンタルヘルスケアを社内で推進する際には、その効果を最大化し、トラブルを未然に防ぐためにいくつかの点に注意を払う必要があります。
特に、従業員のプライバシーという非常にデリケートな情報を取り扱うため、その保護は最優先事項です。
また、メンタルヘルスの問題は、職場のハラスメントと密接に関連していることも多く、両方の対策を連携させて取り組むことで、より健全な職場環境の実現が期待できます。
これらの注意点を遵守し、信頼性の高い制度を構築・運用してください。
相談者のプライバシー保護を徹底する
従業員が安心してメンタルヘルスの相談窓口を利用できるようにするためには、プライバシーの保護を厳守することが絶対条件です。
相談内容や個人の健康情報は非常にデリケートであり、本人の同意なく第三者に漏れることがあってはなりません。
相談したこと自体が人事評価などで不利益な取り扱いにつながる懸念を払拭するため、情報管理のルールを明確に定め、全従業員に周知徹底する必要があります。
相談窓口の担当者には守秘義務を課し、相談記録の管理を厳格に行うなど、従業員が信頼して相談できる体制を構築することが、制度を有効に機能させる上で不可欠です。
ハラスメント防止対策と連携して取り組む
パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントといった職場におけるハラスメントは、従業員の心身に大きなストレスを与え、メンタル不調の直接的な原因となることが多い問題です。
そのため、メンタルヘルスケアとハラスメント防止対策は、それぞれを独立した取り組みとしてではなく、相互に連携させて推進することが極めて効果的です。
両方の相談窓口が連携体制を築き、必要に応じて情報を共有することで、問題の根本的な解決を図ります。
ハラスメントを許さないという企業の明確な方針を示し、全社的な意識改革を進めることが、健全な職場環境の基礎となります。
まとめ
厚生労働省が示すメンタルヘルスケアは、従業員の健康を守り、企業の持続的な成長を支えるための重要な経営課題です。
その核となる「4つのケア」、すなわちセルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、そして事業場外資源によるケアは、それぞれが連携して機能することで最大の効果を発揮します。
企業はこれらのケアを推進するために、研修の実施、働きやすい職場環境の整備、ストレスチェック制度の適切な運用、そして円滑な復職支援体制の構築といった具体的な対策を講じる必要があります。
これらの取り組みは、従業員のパフォーマンス向上と人材の定着に寄与し、組織全体の活性化をもたらします。
コメント